Shared Decision Making

患者さんと医療者がいっしょに決める医療:
シェアード·ディシジョン·
メイキング(共同意思決定)

遺伝子とは
GENE THERAPY
監修
 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻
健康情報学分野 教授 中山 健夫 先生

患者さんと医療者が
いっしょに決める医療:
シェアード·ディシジョン·メイキング
(共同意思決定)

シェアード·ディシジョン·メイキング(SDM)の概要

SDMの必須4要素

SDM は、その定義づけにおいて「より広く患者の視点を取り込み、意思決定への参画を促すことで、すべての医療現場において医療者の支援のもと、患者がより良い選択に至るプロセス」とされています。SDMには必須とされる4要素があります。ここでは4要素に沿って、SDMの基本的な内容を掘り下げます。

SDMの必須4要素

少なくとも医療者と患者が
治療意思決定に関与する

両者が互いの情報を共有する

両者が治療の選好を表明し、
治療意志決定プロセスに参加する

実施する治療が決定し
両者が合意する

中山 健夫, 藤本 修平編. 実践シェアード・ディシジョン・メイキング 改題改訂第2版. 2024, 日本医事新報社

SDMでは、
医療者と患者さん側が
対等なパートナーとなり
決定にかかわる

まず、医療者側と患者さん側が治療意思決定に関与する(パターナリズム、いわゆる「おまかせ医療」にしない)のがSDMでの最初の必須要素です。その際、重要なのは「どちらかが上/下」という関係性ではない点です。診察室では自然と医師(医療者)が上位、患者さん側が下位になりがちですが、SDMではそのような関係を取り払って行っていきます。

治療に関する意思決定の割合
(イメージ図)

治療に関する意思決定の割合(イメージ図)

「対等な関係」と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、医師と同じレベルまで医学の勉強をしなければならないわけではありません。知識は一定程度で、お互いの立場を理解したうえで、一緒に治療について悩み、考え、その決定についての責任も半々に分け合うイメージです(上図)。

患者さん側からは、
自らの意向・希望
を伝える

次は、医療者と患者さん側双方の情報共有です。医療者は、考えられる治療選択肢と、それぞれの治療のメリット・デメリットを患者さん側に提案・説明します。患者さん側は、医療者にご自身の意向・希望を伝えます。具体的には、希望・好み・期待・不安に加えて、治療中の仕事・学業、生活スタイル等も含んでいます。ちなみに、無治療も選択肢の一つです。

これら双方の情報を共有した後、話し合って治療を決めていきます。

SDMのイメージ図

SDMのイメージ図
双方で話し合い
治療のメリット・デメリットと患者さん側の意向・希望を照合し
どの治療が適切か、一緒に考える

両者が適切と思う治療を
選択・決定
する

病気に対する治療法(遺伝子治療、薬物療法、手術、放射線療法、保存療法等)、投与方法(経口、皮下注射、点滴静脈内注射等)、投与間隔(1日1回、2週間に1回、通院が必要等)、効果(強さ/弱さ、即効性がある等)、副作用、治療費等を治療選択肢の中で比較しながら、患者さんの意向・希望にできる限り沿った治療を選び、決定(合意)します。なお、無治療も選択肢の一つです。

治療選択肢 比較表の例
(イメージ)*

メリットの例 デメリットの例
治療A 遺伝子治療

・根治が期待できるケースあり

・通院回数が減る可能性

・通常、入院が必要

・治療施設が限られる

治療B 経口薬

・飲むだけで簡便

・何度も治療できる

・対症療法的(根治ではない)

・定期的な通院が必要

治療C 無治療

・医療費がかからない

・病気が進行・悪化する

*遺伝子治療が可能な複数の疾患をもとに作成

SDMのメリット

公平性が確保できる

情報/コミュニケーション不足のため、受けられるべき医療が受けられないという状況を回避できる可能性があります。また、そもそも医療者と患者さん側には医学知識にギャップがありますが(情報の非対称性)、情報を共有することでそのギャップが狭まることが期待されます。

パターナリズム(おまかせ医療)
からの脱却

医療者が患者さんの治療を決定することが多かった時代がありました(医療現場における治療決定プロセスの歴史)。今では変化がみられるものの、ともすれば、今でも医療者から患者さんへの一方的な情報伝達となりがちです。SDMで治療の意思決定ができれば、そのような状況からの脱却がみえてきます。

患者さんの意向・希望を
組み入れた治療

患者さん側の意向・希望を調整したうえで最も適切な治療を選べるので、患者さんのより豊かな人生につながります。SDMで患者さん側の治療満足度が上がることも期待できます。

SDMのデメリット

時間がかかる可能性

「SDMは短時間でも行える」とする論文がある一方で、現実にはSDMの時間が足りないことが多いとする論文もあります。

医療者の伝える能力、
患者さん側の理解力が
SDMの成功に影響

特に病気の知識について、医療者側のSDM関連のスキルが乏しいと、患者さん側は内容理解に苦労します。一方で、分かりやすい説明でも、患者さん側の知識が足りずに理解できなければ、SDMのプロセスはうまく機能しません。

POINT

SDMでは、患者さん側の
意向・希望を汲んだうえで治療が
選択・決定
される。

参考)

  • 令和2年度〜4年度 厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「がん検診における'Shared Decision Making'推進と利益不利益バランスに基づく受診意思決定支援ツール開発のための研究(20EA1024)」班作成. がん検診Shared Decision Making(SDM)運用マニュアル 2022年度版. 2023年3月. https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001132582.pdf [2025年5月14日アクセス]
  • 中山 健夫, 藤本 修平編. 実践シェアード・ディシジョン・メイキング 改題改訂第2版. 2024, 日本医事新報社
  • Kon, AA. JAMA 2010; 304(8): 903-904.
  • 渡邊 衛一郎. 臨床精神薬理 2017; 20(3): 239-427.
  • 大竹 文雄, 平井 啓. 医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者. 2018, 東洋経済新報社
  • Epstein RM, et al. JAMA 2004; 291(19): 2359-2366.
  • Yahanda AT, Mozersky J. AMA J Ethics 2020; 22(5): E416-422.
  • Waddell A, et al. Implement Sci 2021; 16(1): 74.